「開成は平凡」 東大理三も京大医も制覇! 灘高はなぜ「実は最強」なのか?

「開成は平凡」 東大理三も京大医も制覇! 灘高はなぜ「実は最強」なのか?

 

 

 日本最難関の東京大学理科三類と京都大学医学部医学科。私立灘高校(神戸市)は2016年にそれぞれ20人、25人の合格者を出した。両医学系の5人から4人に1人は灘高生、もちろん全国トップの実績だ。35年連続東大合格者数トップの私立開成高校(東京・荒川)、筑波大学附属駒場高校(東京・世田谷)を加え、「日本の進学校トップ3」と呼ばれるが、受験関係者からは「最強の学校は灘なのではないか」とも指摘される。灘中学・高校の強さの秘密に迫った。

 

 

■開成・東大理三は「平凡」

 「我々の時は東大理三は1学年に90人でした。やはり一番多いのは灘出身者で、うちはその次かな。灘の連中は面白いというか、切れ者が多かった。それに比べると、うちは普通というか、平凡ですよ」。遠隔診療システムを提供する医療ベンチャー、メドレー(東京・港)の豊田剛一郎・代表取締役医師はこう話す。豊田氏は開成から03年に理三に合格、医学部を卒業後に脳外科医となったが、現在は経営者だ。
 開成出身の東大医学部の学生がとても平凡とは思えないが、実はこのメドレーには「東大医学部出身者が5人ぐらいいます」と豊田氏は話す。隣の席の灘高出身者の社員に確認して、「まあ当時も灘から毎年15~20人が理三に合格してたそうですから、灘がずっと多数派ですね」と答えた。
 現在、東大医学部医学科に進む理三の募集人員は97人。工学部や理学部などに進む理一の1108人、主に農学部などに進学する理二の532人と比べて、いかに狭き門なのかが分かる。各予備校は様々な偏差値データを出しているが、いずれも東大理三がトップ、その次が京大医学部医学科だ。「理三、京医が受験界の最高峰」と呼ばれる。1学年の定員は220人の灘から、計45人がこの2つの最高峰に合格しているわけだ。
 ライバル校の開成は1学年は定員400人。16年の東大合格者は171人と全国トップだが、理三となると7人にとどまる。筑駒は160人で、東大合格者は102人、理三は15人だ。一方、灘は東大合格者は94人で3位だが、学年定員に対する合格率では筑駒に次いで2位。理三の合格者では20人でトップを走る。13年には実に27人の理三合格者を出しており、最近は毎年20人を超す。

 

 

■灘には「6つの学校」がある

 なぜこれほどの進学実績を上げているのか、神戸市の同校を訪ねた。
 JR神戸線の住吉駅から徒歩10分。六甲山系から流れる住吉川沿いの閑静な住宅街に灘中学・高校がある。6年間一貫教育の男子校だ。
 「灘高生だからといって、みんなが優秀ではありませんよ。ただ、うちの生徒は東大志向というよりも、最近は3人に1人が医学部志望だから、理三や京大の医学部に行きたがるんでしょうね」。灘中学・高校の和田孫博校長は穏やかな口調で話す。灘にいくつかの大きな特長があるという。
 「灘には6つの学校があるといわれる」と和田校長は話す。学年ごとに教師7~8人で構成される「担任団」というチームをつくり、6年間の持ち上がり制で生徒の面倒を見る。6つの担任団がそれぞれ学年の生徒と一体化し、運営してゆくため「6つの学校」のような形態となる。
 ある数学の先生が16年度の中学1年の担任団に入ると、大学受験まで6年間、責任を持つ。担任教師は他の教師に引き継ぐことなく、6年間を見越したカリキュラムを組み立てる。
 「うちの生徒は面白い子というか、個性派ぞろいですが、担任団は自分の学年の生徒については、あの子はどんな性格で、学力はどんなものなのか、1人ひとり詳しく把握している」(和田校長)という。結果、6年間を見据えた授業を設計し、各教師の責任でしっかりとした授業を行えるのだ。

 

「開成は平凡」 東大理三も京大医も制覇! 灘高はなぜ「実は最強」なのか?

日本航空の大西賢会長

 

 

■教師は「落語家集団」

 和田校長は「教師は『落語家集団』ですわ。職員室は楽屋ですね」という。灘の教師陣も個性派の実力者ぞろいだ。「つまらない授業だと、生徒はすぐそっぽを抜く。だから授業内容は面白くて充実していないといけない」(和田校長)
 中学の3年間をかけて中勘助の『銀の匙』1冊を読み上げる国語授業で知られた橋本武氏(故人)がその代表だが、他の教師もいずれも個性派ぞろいだ。
 「徒然草が大好きな古典の先生も、いつも喜々として徒然草の話ばかりだった」と灘高出身で日本航空会長の大西賢氏は振り返る。
 「他の古典は、そのぶん後で、自分で勉強しなければならないことも多いが、詰め込みではなく、生徒一人ひとりに考えさせる授業なので、面白くて、学ぶ楽しさを肌身で知ることができた」という。
 一方で「理科系の科目は、最初に理論をササッと教えて、後はひたすら問題集の問題を解くというスタイルだった」というが、和田校長は「基本的には大西さんの時代とそんなに変わらないですね」と笑う。
 灘の教師の4分の1は灘出身だ。他の教師は和田校長らが公立高校などの有能な教師をスカウトする。通常の公立高校の定年は60歳だが、灘は65歳、しかも再雇用で68歳まで働ける。非常勤講師なら70歳までも可能だ。
 「有能な先生が安心して長く働けます。公務員よりボーナスも少しいいかな。6年間持ち上がり制を何回か繰り返して教師力を磨いてもらいますから、いい先生にすぐ辞められると困るんです」と和田校長はいう。
 6年持ち上がり制、個性派教師陣はたしかに灘の特長だが、これであれほどの進学実績を上げられるのだろうか。和田校長は「では、面白い場所を見せてあげましょう」と校内を案内してくれた。=つづく
(代慶達也)


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